為替換算ミスで税務署に指摘──福岡の越境EC事業者が申告準備を2週間から3日に縮めた多通貨管理

InvoiceFlow 編集部 · 2026年6月1日 · 読了目安15分

福岡市・博多区。アジアへの玄関口として活気づくこの街で、山口大輔さん(41歳)は越境ECの事業を営んでいる。扱うのは、日本の伝統工芸品や職人の道具、こだわりのキッチンツール。これらを海外の顧客に向けて、Amazon(米国・欧州)、Shopifyの自社サイト、そしてeBayの3チャネルで販売している。包丁やヒノキのまな板、南部鉄器の急須などは、海外のクッキング愛好家から熱い支持を受け、創業5年で年商はおよそ8,000万円に達した。

順調に見えた事業に、ある日「待った」がかかった。税務署からの指摘である。

「為替換算が、合っていません」

きっかけは、3期目の確定申告だった。山口さんの売上は、米ドル、ユーロ、英ポンドという3つの外貨が入り混じる。Amazonの米国マーケットプレイスではドル、欧州ではユーロ、eBayでは取引相手によってドルとポンド。これらをすべて円に換算して、所得を計算しなければならない。

「正直、為替換算は『なんとなく』でやっていました。月末のレートで一括換算したり、入金されたときの円建て金額をそのまま使ったり。チャネルごとにルールがバラバラで、自分でも何を基準にしているか曖昧でした」

税務調査で指摘されたのは、まさにこの点だった。外貨建取引の円換算には、原則として取引日(売上計上日)の為替レートを用いる必要がある。山口さんのように、入金日のレートや月末レートを場当たり的に使っていると、計上額がずれる。結果として、ある年は売上を過少に、ある年は過大に計上していた。

「指摘された追徴税額そのものより、ショックだったのは『自分の事業の数字を、自分が正確に把握できていなかった』という事実でした。8,000万円も売り上げているのに、その内訳が為替の霧の中だった」

越境ECの税務は、想像以上に複雑だ

山口さんが直面していた論点を整理すると、越境ECの税務の難しさが見えてくる。

外貨建取引の円換算

前述のとおり、外貨で受け取った売上は、原則として取引日のレートで円換算する。レートには、その日の電信売買相場の仲値(TTM)などを用いるのが一般的だ。3通貨×3チャネル×数百件の取引を、それぞれ取引日のレートで換算するのは、手作業では地獄に近い。

消費税の輸出免税

もうひとつの大きな論点が消費税の輸出免税だ。商品を海外の顧客へ輸出する取引は、消費税が免除される(輸出免税)。山口さんの売上の大半は海外向けなので、これらは消費税の課税対象外(免税売上)として扱う。一方で、国内の仕入れには消費税が含まれているため、その分は仕入税額控除として還付を受けられる可能性がある。

「輸出免税を正しく適用すれば、消費税の還付を受けられる立場でした。でも、どの売上が輸出免税で、どれが国内売上(たまにある日本在住者向け販売)なのかを区分管理できていなかったので、還付申告も及び腰になっていました」

チャネルごとに異なる手数料と入金タイミング

さらに、Amazon・Shopify・eBayはそれぞれ販売手数料、決済手数料、為替手数料の体系が違う。入金サイクルもバラバラ。これらを横断的に把握する仕組みが、山口さんにはなかった。

多通貨対応の請求・記録ツールへ

税務署の指摘を機に、山口さんは記録の仕組みを根本から立て直すことを決意した。税理士に相談しつつ、日々の取引記録には多通貨対応の請求書アプリ「InvoiceFlow」を導入した。

越境ECでは、BtoBの卸取引(海外の小売店やセレクトショップへの卸)も増えており、こうした取引には正式なインボイス(請求書)が必要だ。山口さんはこのBtoB取引の請求と記録を、InvoiceFlowで一元管理することにした。

取引ごとに通貨と為替レートを「固定」する

InvoiceFlowの肝は、取引ごとに通貨を指定し、その時点の為替レートを固定して記録できる点だった。米ドルの請求書はドルで、ユーロの請求書はユーロで作成し、取引日のレートで円換算額を確定させる。一度確定したレートは固定されるので、後から「あのときのレートは何だっけ」と探し回る必要がない。

「これが本当に効きました。取引日のレートで円換算額がその場で記録されるので、税務署が求める『取引日基準の換算』が自然と守られる。為替の霧が晴れました」

通貨別レポートで内訳が一目瞭然

さらに山口さんが重宝しているのが通貨別レポートだ。期間を指定すると、ドル建て・ユーロ建て・ポンド建ての売上が通貨ごとに集計され、それぞれの円換算合計も出る。「どの通貨でいくら売れているか」が一目でわかる。

「ドルが全体の6割、ユーロが3割、ポンドが1割──という構成が初めて明確に見えました。為替リスクのヘッジを考えるうえでも、この内訳が分かっているのは大きい」

輸出免税の売上を区分管理

山口さんは、海外向け(輸出免税)の取引と、ごくたまにある国内向けの取引を、明確に区分して記録するようにした。InvoiceFlowで顧客や取引を分類することで、消費税の申告時に「免税売上」と「課税売上」をスムーズに切り分けられる。これにより、消費税の還付申告にも自信を持って臨めるようになった。

結果:申告準備2週間→3日、追徴リスクも解消

仕組みを立て直して迎えた次の確定申告。山口さんの作業は劇的に変わった。

「『2週間が3日になった』という時短も嬉しいですが、それ以上に『数字を自分でコントロールできている』という安心感が大きい。経営判断のスピードも上がりました」

複数事業プロフィールでBtoCとBtoBを分離

山口さんは、個人向け小売(BtoC)と、海外小売店向けの卸(BtoB)を、InvoiceFlowの複数事業プロフィール機能で分けて管理している。卸取引には正式なインボイスとロゴ入りの請求書を、小売には簡易なレシートを──と使い分けることで、取引相手に応じた適切な書類を出せるようになった。

カスタムテンプレートで海外取引先にも伝わる請求書

海外の取引先向けには、カスタムテンプレートエディタで英語表記の請求書テンプレートも用意した。通貨記号、日付フォーマット、税の扱いを海外向けに整えることで、「日本式の見慣れない請求書で先方が混乱する」というトラブルも減った。

バックアップで国境を越えるデータも安心

取引データはInvoiceFlowのバックアップ/復元機能で定期的に保存。「越境ECは取引件数が多く、データが命。万一に備えてバックアップを取る習慣がついたのは、税務調査という痛い経験のおかげかもしれません」と山口さんは笑う。

越境ECで「為替の霧」に迷わないために

最後に、山口さんはこれから越境ECに挑戦する人へこう語った。

「越境ECの魅力は、世界中の人に日本の良いものを届けられること。でも、複数通貨が絡んだ瞬間に、税務は一気に複雑になります。大事なのは『取引日のレートで、通貨ごとに、正確に記録する』こと。これを最初から仕組みにしておけば、為替の霧に迷うことはありません。数字が見えていれば、攻めの経営ができる。僕は痛い目を見て、それをやっと学びました」

博多のオフィスで、山口大輔さんは今、3通貨の売上を一目で把握しながら、次の進出市場を見据えている。霧は、もう晴れている。