掛取引の照合がLINE頼みで3日──名古屋の食材卸が滞留債権を12万円から2.3万円に減らした話
InvoiceFlow 編集部 · 2026年6月1日 · 読了目安15分
名古屋市・中区。栄や錦の繁華街に近いこの一帯には、無数の飲食店がひしめいている。その厨房を支える「裏方」のひとりが、食材卸業を営む鈴木大輔さん(46歳)だ。鈴木さんの会社は、新鮮な野菜、精肉、鮮魚、調味料を、中区と近隣エリアの28店舗の飲食店へ毎日配送している。居酒屋、イタリアン、焼肉店、小料理屋──取引先のジャンルは多彩で、月商はおよそ450万円に上る。
朝4時の市場の競りから始まる鈴木さんの一日は、体力勝負だ。だが、彼を最も消耗させていたのは、肉体労働ではなく「月末の事務作業」だった。
掛取引と「月末締め翌月末払い」の重み
飲食店向けの食材卸は、ほぼすべてが掛取引だ。毎日納品するたびに現金で精算するわけにはいかない。そこで「月末締め翌月末払い」が業界の慣習となっている。たとえば6月1日から30日までの納品分を月末で締め、翌7月末にまとめて支払ってもらう、という仕組みだ。
この仕組み自体は合理的だが、卸業者にとっては資金繰り上の負担が大きい。納品から入金まで、長ければ約2ヶ月。その間、鈴木さんは市場への仕入れ代金を立て替え続けなければならない。
そして月末になると、地獄の「照合作業」が待っていた。
LINE頼みの照合に、毎月まる3日
鈴木さんの取引先とのやり取りは、長年LINEが中心だった。「今日トマト3ケース追加で」「明日の鮮魚キャンセルで」──こうした日々の注文変更が、すべてLINEのトーク上に散らばっていた。
月末締めのたびに、鈴木さんは28店舗それぞれのLINEのトーク履歴を遡り、納品伝票(手書きの控え)と照らし合わせて、1ヶ月分の取引額を集計していた。
- LINEの注文・変更・キャンセルの記録
- 手書きの納品伝票の控え
- 店舗側が「言った・言わない」で揉める追加注文
「これを28店舗分やると、まる3日かかっていました。月末の3日間は、配送が終わった夜にひたすら数字とにらめっこ。LINEを上にスクロールしすぎて指がつりそうになる(笑)。しかも、店舗側の記憶と僕の伝票が食い違うことも多くて、そのたびに確認の連絡。本当に消耗しました」
さらに、この曖昧な照合プロセスは滞留債権(回収できずに滞っている売掛金)を生んでいた。請求額の認識がずれていたり、請求書を出すタイミングが遅れたりして、月平均で約12万円が回収されずに滞っていたのだ。年間にすれば100万円を超える。「資金繰りがいつもギリギリだったのは、これが一因でした」
インボイス制度が、曖昧さを許さなくなった
そこに2023年から始まったインボイス制度が、状況に拍車をかけた。鈴木さんの取引先である飲食店は、仕入税額控除を受けるために、適格請求書(インボイス)の保存が必要になった。つまり、鈴木さんは登録番号や税率区分を正しく記載した適格請求書を、毎月きちんと発行しなければならなくなったのだ。
食材は、軽減税率8%(食品)と標準税率10%(一部の非食品や酒類など)が混在する。これらを区分して記載する必要があり、LINEと手書き伝票の「どんぶり勘定」では、もはや対応しきれなくなっていた。
「お得意さんから『おたくの請求書、インボイス対応してます?』と聞かれて、ヒヤッとしました。対応できていなければ、取引先が仕入税額控除を受けられず、最悪、取引を切られてしまう。これは死活問題でした」
請求の仕組みを、スマホで立て直す
鈴木さんが導入したのが、請求書アプリ「InvoiceFlow」だった。市場や配送で動き回る鈴木さんにとって、PCに張り付かずスマホで完結できることが決め手だった。
月次請求書で「締め」を一発に
鈴木さんは、日々の納品をInvoiceFlowに記録するようにした。各店舗ごとに納品内容を入力していけば、月末には自動で月次請求書が組み上がる。「月末締め翌月末払い」の締め作業が、ボタンひとつで完了するようになった。
軽減税率8%と標準税率10%の区分、登録番号の記載も自動。出来上がる請求書は、そのまま適格請求書として通用する。「インボイス対応の不安が、一瞬で消えました」
電子署名で「言った言わない」を撲滅
鈴木さんが特に効果を実感したのが電子署名機能だ。月次請求書を各店舗の店主に送り、内容を確認のうえ電子署名してもらう。これで「この月の請求額はこれで合意した」という記録が双方に残る。
「『先月のあの注文、頼んでないよ』みたいな揉め事が、ほぼなくなりました。署名してもらった時点で、請求額が確定する。お互いに気持ちよく取引できるようになりました」
自動リマインダーで翌月末払いを取りこぼさない
そして自動リマインダー。翌月末の支払期日が近づくと、InvoiceFlowが各店舗に自動でリマインドを送る。期日を過ぎても入金がなければ、再通知が飛ぶ。鈴木さんが一軒一軒に督促のLINEを打つ必要がなくなった。
「飲食店の店主さんも忙しいから、悪気なく払い忘れることがある。システムが淡々とリマインドしてくれると、『あ、ごめんごめん』とすぐ振り込んでくれる。人間関係を壊さずに回収できるのが、本当にありがたい」
支払いは銀行振込が中心、一部はPayPayも
取引先からの支払いは、従来どおり銀行振込が中心だ。InvoiceFlowの請求書には振込先を明記し、入金を確認したら消し込む。小規模な個人店の一部では、店主の希望でPayPayでの支払いにも対応するようになった。「現金商売の飲食店さんにとって、PayPayでサッと払えるのは便利みたいです」
結果:照合3日→半日、滞留債権12万円→2.3万円
導入から1年。鈴木さんの月末は、見違えるように変わった。
- 月末の照合作業:3日 → 半日。日々の記録が積み上がっているので、締めはほぼ自動。LINEを延々と遡る作業から解放された。
- 滞留債権:月平均12万円 → 2.3万円。請求の確定が早くなり、自動リマインダーで回収が進んだ結果、5分の1以下に。
- インボイス対応:完璧に。登録番号・税率区分が自動反映され、取引先からの信頼が向上。
- 「言った言わない」のトラブル:激減。電子署名で請求額が確定するため、揉め事がほぼ消滅。
「滞留債権が12万円から2.3万円に減ったということは、それだけ手元の資金が増えたということ。市場での仕入れに使える現金が増えて、良い食材を多めに仕入れられるようになった。回収の改善が、商売の質まで上げてくれたんです」
複数事業プロフィールで卸と小売を分ける
鈴木さんは最近、一般消費者向けに精肉のネット販売も始めた。InvoiceFlowの複数事業プロフィール機能で、卸事業と小売事業を分けて管理。それぞれに適した請求書・領収書を出し分けている。
カスタムテンプレートで取引先ごとの様式に対応
28店舗の中には、独自の様式を求める先もある。鈴木さんはカスタムテンプレートエディタを使い、納品明細の見せ方や項目の並びを取引先ごとに調整。「うちの経理に合わせてくれて助かる」と取引先からも好評だ。
バックアップで取引データを守る
28店舗×毎日の取引データは、鈴木さんにとって最重要の経営資産だ。InvoiceFlowのバックアップ/復元機能で定期的に保存し、万一のスマホ故障にも備えている。「市場で立ちっぱなしの商売だから、スマホを落としたり壊したりは日常茶飯事。バックアップがあると安心して仕事に集中できます」
裏方の仕事を、もっと前向きに
最後に、鈴木さんは同業の卸業者へこう語った。
「食材卸って、飲食店を支える誇りある仕事です。でも、月末の照合や回収に消耗していたら、その誇りもすり減ってしまう。LINEと手書き伝票のどんぶり勘定は、もう限界です。インボイス制度の時代、請求の仕組みをきちんと整えることは、取引先を守ることでもある。仕組みに任せられるところは任せて、僕らは良い食材を届けることに集中したい。それが本当の仕事ですから」
名古屋・中区。朝4時の市場で、鈴木大輔さんは今日も新鮮な食材を選んでいる。月末の3日間は、もう数字との格闘ではなくなった。