横浜のウェディングプランナーが年120万円の損失をゼロにした「5段階支払い」の話

InvoiceFlow編集部 — 2026年5月30日公開 — 読了目安9分

岡本佳琳(おかもと・かりん)さんの仕事場は、横浜・みなとみらいの一角にある小さなアトリエだ。壁一面に貼られた会場の図面、サンプルのテーブルクロス、過去に手がけた式の写真。机の上には常にiPadと電卓と、付箋でびっしり埋まった手帳が並んでいる。年間およそ40件の結婚式をプロデュースし、客単価は80万円から、大きなものでは300万円を超える。数字だけ見れば、一人で回す個人事業としてはかなり優秀だ。

それなのに、佳琳さんは去年の確定申告のときに、思わず声を上げてしまった。「利益が、思っていたより120万円も少なかったんです」。

これは、その120万円がどこに消えていたのか、そしてどうやって取り戻したのかという話だ。

「いい仕事をしているのに、なぜか手元にお金が残らない」

結婚式という商材は、ほかの個人事業とは決定的に違う点がある。納品(=式当日)までのリードタイムが半年から一年と長く、その間に立て替えるお金が膨大だという点だ。

佳琳さんの場合、契約から当日までに発生する立替は、ざっと次のようなものだった。会場への内金、装花の発注金、引き出物の前金、ドレスショップへの予約金、ペーパーアイテムの印刷費、当日のスタッフへの手配料。一件あたり、多いときには100万円近くを彼女が先に払い、あとから新郎新婦に請求していた。

問題は、そのお金の流れに「穴」が三つ空いていたことだ。

穴その1:直前の値下げ要求

「式の二週間前って、新郎新婦は予算オーバーで青ざめているんですよ」と佳琳さんは言う。「そこに『佳琳さん、装花だけちょっと安くできない?』って言われると、断れない。もう人間関係ができあがっているから」。年間40件のうち、5〜6件でこの直前値下げが発生し、一件平均7万円。これだけで年40万円が溶けていた。

穴その2:当日後の未払い

式が終わってからの最終請求が、なかなか払われない。新婚旅行に行ってしまう、ご祝儀の集計に時間がかかる、そもそも「終わったこと」への支払い意欲が下がる。佳琳さんは督促が苦手で、「あんなに感動的な式の後に、お金の話で気まずくなりたくない」と先延ばしにしているうちに、年に2〜3件、合計30万円ほどが事実上の貸し倒れになっていた。

穴その3:立替購入の取りこぼし

最後が一番タチが悪かった。当日近くになると、現場でこまごました追加購入が発生する。急なリボン、予備のキャンドル、雨対策の傘、スタッフの差し入れ。これらをPayPayや自分のクレジットカードでパッと払い、領収書を手帳に挟んでおく。ところが式が終わって燃え尽きると、その領収書を請求にあげるのを忘れる。一件あたり数千円から1万円、年間で50万円分もの立替が、請求書に載らないまま消えていた。

40万+30万+50万。合わせて年120万円。客単価80万〜300万の仕事をしていながら、年に120万円を取りこぼしていたのだ。

転機は「同業の先輩のひとこと」

転機が訪れたのは、横浜の同業者が集まる勉強会だった。10年選手のプランナーに愚痴をこぼしたところ、こう返ってきた。「佳琳ちゃん、それ全部、請求の設計の問題だよ。お金をもらうタイミングが、仕事の進み方とズレてるんだよ」。

その先輩が使っていたのが、スマホで請求書を作る「InvoiceFlow」というアプリだった。先輩いわく、「結婚式みたいに納品まで長い仕事は、最後にドカンと請求するんじゃなくて、進行に合わせて分割で請求するのが鉄則」。アプリには、一枚の請求書を複数回の支払いに分割し、それぞれに期日と金額を設定できる「分割払いスケジュール」機能があるという。

佳琳さんはその夜、Google Playからアプリを入れてみた。そして、自分の仕事の流れを五つの段階に分けて、支払いタイミングを設計し直した。

「5段階支払い」の設計

佳琳さんが組み立てたスケジュールは、こうだ。総額200万円の式を例にすると:

この設計の肝は二つある。一つは、立替が発生する前にその原資が手元に入ること。もう自分のカードを切る必要がない。もう一つは、最後の未払いリスクが総額の5%にまで圧縮されること。万が一払われなくても、200万円の式なら10万円。すでに95%を回収済みなので、致命傷にならない。

InvoiceFlowでは、この五つの支払いを一枚の請求書の中にスケジュールとして組み込める。各段階に期日を設定しておくと、期日が近づいたときに自分宛にリマインドが出る。新郎新婦に渡すPDFには、「お支払いスケジュール」として全5回の金額と期日が一覧で印字される。「これがあると、お客様も『あ、ちゃんと段取りされてるんだな』って安心するんですよ。むしろ信頼が上がった」と佳琳さんは言う。

テンプレート化で、毎回ゼロから作らない

もう一つ佳琳さんが活用したのが、テンプレート機能だった。式のプランには「シンプル」「スタンダード」「プレミアム」の三つの基本形がある。それぞれに対応した請求書テンプレートを一度作っておけば、新しい案件では新郎新婦の名前と会場、総額を入れるだけで、5段階のスケジュールごと一枚が完成する。

さらに彼女は、カスタムテンプレートエディタを使って、請求書のヘッダーに自分のアトリエのロゴと、結婚式らしい上品な装飾を配置した。「事務的な請求書じゃなくて、私のブランドの一部として渡せる。お客様にとっては、これも『作品』の一部なんです」。

立替の取りこぼしを潰す

三つ目の穴、立替購入の取りこぼしについては、運用ルールを一つ決めた。現場で何かを買ったら、その場でPayPayやレシートの写真を見ながら、InvoiceFlowの該当案件にメモ項目として即入力する。アプリはオフラインでも動くので、電波の悪い式場の地下でも記録できる。後で同期される。

「燃え尽きてから思い出す」のではなく「その場で記録する」に変えただけで、取りこぼしはほぼゼロになった。第5段階の完了後請求に、当日の立替分がきれいに乗るようになった。

結果:赤字案件がゼロに

この仕組みを導入して一年。佳琳さんの数字はこう変わった。

まず、直前の値下げ要求が激減した。発注前の第3段階で原資をすでに受け取っているため、「もう発注済みなので、ここから値引きはできないんです」と、お金の話ではなく工程の話として説明できるようになった。値下げ被害は年40万円から、年8万円まで縮んだ。

次に、当日後の未払いがほぼ消えた。回収すべき残額が総額の5%だけになり、しかも期日リマインドが出るので、督促のハードルが劇的に下がった。「あと一回分だけお願いしますね、ってLINEするだけ。気まずさが全然違う」。貸し倒れ30万円は、年2万円以下に。

そして、立替の取りこぼし50万円がゼロになった。

合計すると、年120万円の損失が、年10万円程度にまで圧縮された。実質110万円の利益回復だ。彼女の利益率で考えれば、これは新規案件を10件以上増やしたのと同じインパクトがある。しかも、新しい仕事を一件も増やさずに、だ。

「一番大きかったのは、お金のことで気を揉まなくなったことかもしれません」と佳琳さんは言う。「式の当日、私はお客様の幸せだけを見ていられる。お金の心配を、アプリのスケジュールに預けられたから」。

同じ悩みを持つ人へ

結婚式に限らず、納品までのリードタイムが長く、途中で立替が発生する仕事——リフォーム、オーダーメイド、イベント制作、長期のコンサルティング——には、この「進行連動の分割払い」が驚くほど効く。ポイントは三つだ。

  1. 契約時にまとまった割合を受け取る(キャンセル保険になる)。
  2. 立替が発生する直前に、その原資を受け取る(自分のお金を寝かせない)。
  3. 最後の請求を全体のごく一部にする(未払いの致命傷を防ぐ)。

まず、過去半年の案件を一件ずつ振り返ってみてほしい。いつお金を立て替えて、いつ回収できたか。そのズレの大きさに、たぶん驚くはずだ。

使ってみる

InvoiceFlowはGoogle Playから無料でダウンロードできる。分割払いスケジュール、テンプレート、カスタムテンプレートエディタ、複数の事業プロフィール、PDF出力、オフライン動作、バックアップといった機能は、サブスクなしで使える。日本円はもちろん、海外のお客様向けに多通貨にも対応している。

岡本佳琳さんは、この春から事業を法人化する準備を始めた。「請求の流れがきれいに見えるようになったら、銀行の融資の話もスムーズだったんです」。120万円の穴は、ただ塞がれただけではなく、次のステージへの足がかりになった。