神戸のバリスタが3つの事業を「プロフィール分け」して、年利益を35%増やした話
InvoiceFlow編集部 — 2026年5月30日公開 — 読了目安10分
藤本俊介(ふじもと・しゅんすけ)さんは、神戸・北野の坂道の途中にある小さな店「FUJIMOTO COFFEE」のオーナーだ。元町の有名店で10年修業し、独立して4年。豆の選定から焙煎、抽出まで全部一人でこなす職人肌のバリスタである。店は人気だが、彼の事業はカフェだけではない。実は三つの顔を持っている。
- カフェ(B2C):店頭で一杯ずつコーヒーを提供する、いわゆる飲食店業務。
- 企業向けコーヒー教室(B2B):オフィスや結婚式場、ホテルのスタッフに抽出を指導する出張講座。
- 焙煎豆の卸(B2B・月次):近隣のレストランやベーカリー、オフィスに焙煎豆を毎月納める。
三つとも順調に伸びていた。だが俊介さんには、ずっと拭えない不安があった。「全体では黒字。でも、どの事業が稼ぎ頭で、どれが足を引っ張っているのか、まったく分からなかったんです」。
「全部いっしょくた」の帳簿が招いた混乱
独立当初、俊介さんは三つの事業の売上も経費も、一つの帳簿にまとめて記録していた。カフェの一杯550円も、教室の出張講座8万円も、卸の月額15万円も、全部同じ箱に放り込んでいたのだ。
これが、いくつもの問題を生んだ。
問題1:利益の内訳が見えない
全体の数字は分かっても、「カフェ単体の利益率」「教室の利益率」「卸の利益率」がそれぞれ何%なのかは、まったく見えなかった。俊介さんの感覚では、店頭でお客様と接するカフェが一番の稼ぎ頭で、地味な卸はおまけ程度——そう思い込んでいた。
問題2:消費税の税率が混在する
日本の消費税には軽減税率がある。飲食料品の販売は8%、店内飲食や役務提供は10%。俊介さんの事業では、これがきれいに分かれていた。卸の焙煎豆(飲食料品)は8%、教室の指導料(役務)は10%、カフェの店内飲食は10%だが豆の物販は8%……。これが一つの帳簿で混ざると、消費税の集計が悪夢になる。
問題3:インボイス(適格請求書)の発行先がバラバラ
2023年に始まったインボイス制度のもとで、B2Bの取引先——教室を依頼する企業や、豆を仕入れるレストラン——は、仕入税額控除のために適格請求書(インボイス)を求めてくる。一方、カフェの一般客はインボイスを必要としない。同じ帳簿で全部を扱うと、「どの取引にインボイスを出すべきか」の管理が煩雑になり、登録番号の記載漏れも起きかけていた。
俊介さんは、確定申告のたびに数日かけて、ぐちゃぐちゃの記録を三つに仕分け直していた。「焙煎より、この仕分けの方がよっぽど大変でした」。
解決のヒントは「事業プロフィールを分ける」
転機は、卸先のレストランオーナーとの雑談だった。「藤本さん、その3つ、別の事業として分けて管理した方がいいよ。請求書アプリで事業プロフィールを分ければ、帳簿も自然に分かれるから」。
そのオーナーが使っていたのが、スマホで請求書を作る「InvoiceFlow」だった。このアプリには、複数の事業プロフィールを作れる機能がある。屋号、ロゴ、住所、登録番号(インボイス番号)、デフォルトの通貨や税率などを、事業ごとに別々に設定できる。請求書を作るときに、どのプロフィールから発行するかを選ぶだけで、その事業の設定が自動的に適用される。
俊介さんは、自分の三つの事業をそれぞれ独立したプロフィールとして登録した。
3つのプロフィール設計
プロフィール1:FUJIMOTO COFFEE(カフェ/B2C)
店頭販売用。デフォルト税率は店内飲食10%・物販8%を切り替えられるよう、商品カテゴリ別の税率プリセットを用意。レシート的な簡易な様式で、PayPayや現金の入金を記録する。インボイス番号は表示するが、一般客向けなので簡素に。
プロフィール2:FUJIMOTO COFFEE LAB(教室/B2B)
企業向け出張講座用。デフォルト税率は役務提供の10%。請求先は法人が多いので、適格請求書の体裁を整え、登録番号・取引内容・税率区分を明記。カスタムテンプレートエディタで、教室らしい落ち着いたデザインの請求書を作成。源泉徴収が必要な取引先には、その控除欄もテンプレートに組み込んだ。
プロフィール3:FUJIMOTO BEANS(卸/B2B月次)
焙煎豆の卸用。デフォルト税率は飲食料品の軽減税率8%。毎月決まった取引先に決まった量を納めるので、定期請求機能を使い、月初に自動で請求書が生成されるよう設定。これで毎月の請求作業がほぼゼロになった。掛取引(後日まとめて支払い)が中心なので、入金管理もこのプロフィールで一元化した。
分けてみて分かった「衝撃の事実」
三つのプロフィールで半年運用し、それぞれの売上・経費・利益を初めて別々に見たとき、俊介さんは固まった。彼の思い込みは、完全に間違っていた。
一番の稼ぎ頭は、おまけだと思っていた「卸」だったのだ。
数字はこうだった。カフェは売上こそ大きいが、家賃・人件アルバイト・廃棄ロス・光熱費がかさみ、利益率は十数%にとどまっていた。教室は単価は高いが、出張の移動時間と準備工数を考えると、思ったほど効率は良くなかった。一方、卸は——焙煎の工程さえ確立してしまえば追加コストが小さく、定期請求で事務負担もほぼゼロ、掛取引で安定回収。利益率はカフェの2倍以上あった。
「店頭でお客様の笑顔を見られるカフェが、自分の中心だと思っていました。でも数字は、地味な卸が事業を支えていると教えてくれた」。
数字に基づいて、事業を組み替える
事実が見えたことで、俊介さんは経営判断を変えた。
まず、卸先を増やす営業に力を入れた。利益率が高いのだから、ここを伸ばすのが合理的だ。半年で取引先を5件から11件に増やし、定期請求のおかげで事務負担はほとんど増えなかった。
次に、カフェの営業時間を見直した。利益率の低い時間帯(平日の夕方など)を短縮し、その時間を焙煎と卸の発送に回した。カフェの売上は微減したが、利益はむしろ改善した。
教室は、移動コストを踏まえて単価を見直し、近隣エリアに集中するようにした。
こうした組み替えの結果、事業全体の年間利益は35%増えた。売上自体は微増にとどまったが、利益率の高い卸の比重を上げ、低い部分を絞ったことで、手元に残るお金が大きく増えたのだ。
確定申告とインボイスも、劇的に楽に
副次的な効果も大きかった。事業プロフィールごとに記録が分かれているので、確定申告のときの仕分け作業が消えた。各プロフィールの売上・経費・税率別の集計が、そのまま使える。
インボイス制度への対応も盤石になった。B2Bの二つのプロフィール(教室・卸)には登録番号と税率区分が標準で入るので、取引先から「適格請求書をください」と言われても即対応できる。軽減税率8%と標準税率10%が、プロフィールと商品カテゴリのプリセットで自動的に正しく適用されるので、税率の取り違えもなくなった。
「税理士さんにも『すごく見やすくなった』と言われました。決算料も少し下がったんですよ」と俊介さんは笑う。
同じように複数の顔を持つ人へ
一人で複数の収入源を持つ個人事業主は、今や珍しくない。デザイナーが物販も手がける、美容師が講師業もやる、農家が加工品も売る——。そういう人ほど、事業を一つの帳簿で混ぜてはいけない。混ぜると、どこが本当の稼ぎ頭か永遠に見えないからだ。
ポイントは三つ。
- 事業ごとにプロフィールを分ける。屋号・税率・インボイス番号を別々に持たせる。
- それぞれの利益率を別々に見る。思い込みと現実は、たいていズレている。
- 数字に基づいて比重を組み替える。利益率の高い事業を伸ばす。
使ってみる
InvoiceFlowはGoogle Playから無料でダウンロードできる。複数の事業プロフィール、商品カテゴリ別の税率プリセット(軽減税率8%・標準税率10%対応)、適格請求書(インボイス)対応、定期請求、カスタムテンプレートエディタ、PDF出力、オフライン動作、バックアップなどがサブスクなしで使える。海外取引がある人向けに多通貨にも対応している。
藤本俊介さんは今、卸専用の焙煎室を借りる計画を立てている。「数字が見えると、どこに投資すべきかが分かる。コーヒーは感性の仕事だけど、経営は数字の仕事なんだと、4年目にしてやっと腹落ちしました」。