京都のイラストレーターが多通貨ロイヤルティ管理で、過去28万円の未収を回収した話
InvoiceFlow編集部 — 2026年5月30日公開 — 読了目安10分
林佳(はやし・けい)さんは、京都・西陣の町家を改装したアトリエで働くフリーランスのイラストレーターだ。柔らかな色彩と、どこか民芸的な温かみのある作風で、ここ数年で一気に名前が知られるようになった。彼女の絵は、絵本の挿絵に使われ、化粧品ブランドのパッケージを飾り、台湾の文具になり、海外のスマホアプリのアイコンにもなっている。
作品が世界に広がるのは嬉しい。だが、その「広がり」が、彼女の事務作業を悪夢に変えていた。原因は、ロイヤルティ(著作権使用料)だ。
「自分が今いくら受け取るべきか、誰も教えてくれない」
佳さんの収入には、二つの種類がある。一つは、絵を一枚描いて納品する「制作料」。これは分かりやすい。もう一つが、作品の使用権をライセンスして、売上や使用期間に応じて受け取る「ロイヤルティ」だ。問題はこちらだった。
彼女のロイヤルティ収入は、こんな状況だった。
- 日本の出版社:絵本の重版部数に応じて、半期ごと(年2回)に支払い。日本円。
- 台湾の文具メーカー:商品の売上に応じて、四半期ごと(年4回)に支払い。台湾ドル。
- 米国のブランド:パッケージ使用のライセンスで、四半期ごとに支払い。米ドル。
- 英国のアプリ会社:アイコン使用料を四半期ごとに。英ポンド。
四つの取引先、四つの通貨、四半期と半期が入り混じった支払いサイクル。そして著作権使用許諾契約ごとに料率もミニマムギャランティー(最低保証額)も違う。これを佳さんは、頭とカレンダーへの走り書きで管理していた。
結果、何が起きたか。「払われるべきお金が、払われていないことに気づけない」のだ。
漏れが常態化していた
ロイヤルティ収入の厄介なところは、請求書を自分から出すわけではないことが多い点だ。多くの契約では、相手側が売上を集計して、レポートとともに支払ってくる。つまり佳さんは「いつ・いくら入るか」を受け身で待っている状態だった。
これが落とし穴になる。たとえば台湾の文具メーカーから、第2四半期の支払いが来ない。でも佳さんは「あれ、来てたっけ? 来てなかったっけ?」と確信が持てない。四つの取引先のバラバラなサイクルを全部覚えていられないからだ。結局、催促しそびれて、そのまま立ち消えになる。
米国ブランドからは、契約上ミニマムギャランティーがあるのに、実売連動の少額しか振り込まれていない四半期があった。だが彼女はそれに気づかず、差額を請求しそびれた。
こうした「漏れ」が、彼女が後で数え直したところ、過去2年間で合計28万円分もあった。決して小さくない金額だ。「描くことには命をかけていたのに、受け取ることにはあまりに無頓着でした」と佳さんは振り返る。
転機:先輩作家の「台帳を持ちなさい」
転機は、絵本作家の先輩との会話だった。佳さんがロイヤルティの混乱を打ち明けると、先輩はこう言った。「ロイヤルティはね、相手任せにしちゃダメ。自分で『いつ・いくら受け取る予定か』の台帳を持つの。そうじゃないと、足元を見られるよ」。
その先輩が、台帳兼請求管理に使っていたのが「InvoiceFlow」だった。スマホで多通貨の請求書を作れて、入金予定と入金実績を突き合わせられる。佳さんは、これを「ロイヤルティ管理台帳」として使い始めた。
仕組み:多通貨+ロイヤルティ追跡
1. 取引先ごとに通貨を固定
InvoiceFlowは多通貨に対応している。佳さんは、日本の出版社は日本円、台湾は台湾ドル、米国は米ドル、英国は英ポンドと、取引先ごとにデフォルト通貨を設定した。請求書や入金予定をそれぞれの現地通貨のまま記録できるので、「いくら受け取るべきか」が原通貨で明確になる。
さらに、為替レートを記録時点で固定できるので、円換算がぶれない。確定申告で円換算が必要になったときも、レートが請求書に残っているので計算がぶれない。
2. 入金予定を先に登録する
ここが肝だった。佳さんは、各契約のロイヤルティ支払いサイクルに合わせて、「次にいつ・どの通貨で・最低いくら入る予定か」を予定として先に登録した。台湾は四半期末、米国は四半期末+ミニマムギャランティー、日本は半期末、というように。
こうしておくと、その時期が来たときに「予定」と「実績」を突き合わせられる。入金が来なければ「未着」として残り、催促できる。少額しか来なければ「ミニマムとの差額あり」として見える。受け身だったロイヤルティが、自分から管理できる対象に変わった。
3. リマインダーで催促を逃さない
各入金予定に期日を設定すると、その時期にリマインドが出る。「台湾・第2四半期ロイヤルティ・着金確認」。これを見て、入金がなければ取引先に問い合わせる。バラバラなサイクルを記憶に頼らず、アプリが教えてくれるようになった。
過去の漏れを掘り起こす
仕組みを整えた佳さんは、過去2年分の契約とレポートを一件ずつ照合した。すると、取りこぼしが次々と出てきた。
台湾メーカーの第3四半期、支払い漏れが1件。問い合わせたら「担当者の引き継ぎミス」で、すぐに振り込まれた。米国ブランドのミニマムギャランティーとの差額が2四半期分。これも契約書を添えて請求したら、認められた。日本の出版社の重版分が1回、計上漏れになっていた。
こうして掘り起こした過去の未収は、合計28万円。すべて、本来受け取るべき正当な対価だった。「催促って気が引けるんですけど、契約書とアプリの記録があると、堂々と言えるんです。『契約のこの条項に基づいて、この期の差額をご確認ください』って」。
海外取引の税金まわりも整理
海外からのロイヤルティには、源泉徴収や租税条約がからむ。佳さんは多通貨の記録が整ったことで、税理士への説明もスムーズになった。「どの国から、どの通貨で、いくら、いつ受け取ったか」が一覧で出るので、外国税額控除の処理も以前よりずっと楽になったという。
また、彼女が新たにライセンス契約を結ぶときには、InvoiceFlowのカスタムテンプレートで、ロイヤルティ条件(料率・最低保証・支払いサイクル・対象通貨)を明記した請求書/支払い予定書をきれいに作って相手に渡すようにした。「最初に書面で条件を共有しておくと、後でもめない。これも先輩の教えです」。
結果と、その先
仕組みを導入して一年。佳さんのロイヤルティの「漏れ」は、ほぼゼロになった。入金予定と実績を毎四半期突き合わせるルーティンが定着し、未着があればすぐ気づける。掘り起こした過去の28万円に加えて、今後取りこぼすはずだった分も守れるようになった。
「『描く』のと『受け取る』は、両方プロの仕事なんだと気づきました」と佳さんは言う。「受け取ることにちゃんと向き合えるようになったら、新しいライセンスの交渉でも、自分の作品の価値を堂々と主張できるようになった。これは金額以上に大きな変化でした」。
同じように作品をライセンスする人へ
ロイヤルティ収入のある人——イラストレーター、作家、ミュージシャン、デザイナー、写真家、キャラクター制作者——に共通する教訓はこうだ。
- ロイヤルティを相手任せにしない。「いつ・いくら受け取る予定か」の台帳を自分で持つ。
- 通貨は原通貨のまま記録する。多通貨対応のツールで、レートを固定して残す。
- 入金予定と実績を突き合わせる。漏れは「気づけば」回収できる。
使ってみる
InvoiceFlowはGoogle Playから無料でダウンロードできる。多通貨対応(為替レートの固定記録つき)、入金予定と実績の管理、期日リマインダー、カスタムテンプレートエディタ、PDF出力、複数事業プロフィール、オフライン動作、バックアップなどがサブスクなしで使える。
林佳さんの絵は、この秋からフランスの出版社でも使われることが決まった。通貨はユーロ。「五つ目の通貨ですけど、もう怖くないです。台帳に一行足すだけ」。受け取ることに向き合えるようになった彼女の作品は、これからも国境を越えていく。